胃痛を訴えている方の原因が、他の部位、例えば腸や胆嚢からくる痛みであることはよく経験します。また、症状の強さが疾患の重さに直結しない場合もあります。例えば、軽い胃痛が胃潰瘍や胃がんの初期症状であることもあれば、一時的な腸の動きの乱れによる腹痛で済む場合もあります。お腹にはさまざまな臓器があるため、痛みの原因となる病気も多岐にわたります。
痛みの種類や強さ、痛む部位、随伴症状の有無などを丁寧に問診し、おなかの診察をすることで、ある程度痛みの原因を推測することが可能です。
胃痛について
胃痛というとみぞおちの痛み、医学的には心窩部痛と表現されます。胃が悪くて痛みが生じていることが多いですが、胃以外の部位が痛みの原因であることもあります。
表現の仕方も様々で、「キリキリ痛い」と訴えられたり、「胃が重い」、「胃のむかつき」などと一律ではありません。
胃痛と言えば、、、
キリキリ痛い ギューと痛い 胃が重い 焼けるような痛み すぐ満腹感がある
圧迫感がある 食べると痛くなる 空腹時に痛みが出る
胃痛のタイプ
胃酸が多い、胃酸に過敏で痛くなる
胃酸が過剰にでたり、胃酸に過敏になったりして、胃の表面に炎症を起こしている状態です。よくキリキリした痛みと表現されます。
胃痙攣で痛くなる
胃の筋肉が普段とは異なる収縮(痙攣)を起こし、神経が刺激され痛みが生じます。痛みには波があります。
胃腸機能低下タイプ
胃の蠕動機能の低下や胃内容物の十二指腸への排出がうまくいかなくなると、胃痛が生じます。
腹痛について
腹部(おなか)には大腸や小腸、胃、膵臓、肝臓、胆のうなどの消化器の臓器のほかに、膀胱や腎臓などの泌尿器系、女性の子宮や卵巣などの婦人科系と様々な臓器があり、原因疾患も複数考えられます。ストレス、冷えや食べ過ぎなどが原因で日常的に起こりますが、すぐに治療が必要な疾患が原因のこともあるため、腹痛の原因を特定することが大切です。
腹痛のタイプ
腹痛は、胃や腸の筋層や外側の膜などで起こる内臓痛、腹膜や体表などに生じる体性痛、原因とは異なる場所で痛みが起こる関連痛に大別されます。
内臓痛
消化管の外側の膜や筋肉の収縮・痙攣によって生じる腹痛です。広い範囲で痛みが生じる傾向にあり、腹痛の他にも便秘や下痢、吐き気、冷や汗などの症状を伴うことがあります。
体性痛
機械的な刺激や炎症などにより腸間膜、腹膜、横隔膜などの知覚神経が刺激されて起こる腹痛です。痛む場所が明確であり、動いたり触ったりすると強い痛みを感じます。
関連痛
原因とは違う場所で痛みが起こる腹痛です。痛みが脊髄神経を伝わる際に、近くの神経線維にも刺激が広がり、その支配領域である場所で痛みが生じます。痛む場所は明確ですが、原因は異なる場所にあります。
一時的な痛みがすぐに収まり繰り返さない場合は、緊急性は低いと考えられます。しかし、軽い痛みでも病気のサインのこともあるので、いつもと違う時は一度受診して原因を調べることをおすすめします。
すぐに受診が必要な痛み
次の症状がある場合は、速やかな治療が必要と考えられます。
- 急に強い激痛が走る
- 冷や汗が出るほどの痛み
- お腹を押した後、離すと痛みが強まる
- 嘔吐や吐血がある
- 歩くと痛みが増す
上記の指標は目安です。痛みの感じ方は人によって違うので、いつもと違う痛みを感じた時は、自己判断をせずに一度診察を受けることが大切です。
胃痛・腹痛を起こす消化器疾患
胃痛(心窩部)や上腹部の痛みの時は
急性膵炎
膵臓で強い炎症が生じ、背中や上腹部で強い痛みが起こります。主な原因はアルコールです。
胆石症・胆のう炎
胆嚢内に石ができる疾患です。無症状の胆石症は治療の必要はありません。胆石発作がおこると右季肋部(肋骨の裏)に間欠的な痛みが出現します。典型的には「脂っこいものを食べた後に痛くなる」です。胃と思ったら胆嚢だったというのはよくあります。胆石により炎症が引き起こされると胆嚢炎や胆管炎になり、持続的に痛くなります。重症化すると急激に具合が悪くなることがあります。
下腹部の痛み・腹部全体の痛みの時は
- 便秘
- 急性胃腸炎
- 過敏性腸症候群
- 潰瘍性大腸炎・クローン病
- 大腸がん
急性虫垂炎
盲腸から伸びた細長い臓器(虫垂)に、急性に炎症が起こる疾患です。一般的には「盲腸」という名で知られていますが、医学的には「急性虫垂炎」という病名です。院長が初めて執刀した手術が急性虫垂炎の手術です。虫垂は右下腹部にありますが、はじめはみぞおちの辺りに痛みが生じ、次第に痛みが右下腹部に移ります。緊急手術が必要となることもあります。
大腸憩室炎
大腸粘膜の一部が膨張して袋状になった状態を大腸憩室と言います。便秘などで内圧が上昇することによって起こると考えられています。憩室ができても無症状であれば気にしなくてよいですが、出血や炎症を起こすことがあります。炎症を起こすと、その大腸周辺に痛みが現れます。
腸閉塞
腸内容物の通過に支障をきたした状態です。排便や排ガスが止まり、お腹がふくらみ、腹痛、吐き気などがでてきたら腸閉塞の可能性があります。小腸の腸閉塞は手術後の癒着が主な原因です。なかでも大腸の腸閉塞は急激に悪化することがあるため、速やかな受診が必要です。
鼠径ヘルニア
鼠径部は脚の付け根を指し、鼠径ヘルニアとは鼠径部から内臓の一部が腹腔外に飛び出す疾患です。腹圧がかかることで鼠径部が膨らみますが、横になったりして腹圧が低下すると膨らみは引きます。腸が腹腔外に飛び出したまま戻らなくなった状態を「嵌頓」と言い、強い痛みが起こります。嵌頓した場合は、緊急手術が必要となることもあります。鼠径ヘルニアは良性疾患ですが、自然には消失しません。最近では腹腔鏡手術により小さな傷できれいに治すことができますので、ぜひご相談ください。
当院の消化器外来では、専門医が消化器疾患以外の原因も念頭に置いて適切な診療を実施します。